次世代プラットフォーム『カルダノ』とは
チャールズ・ホスキンソンという人物を知っているだろうか?暗号通貨に詳しい読者の皆様であれば、必ず一度は耳にした事があるはずだ。
1,500以上ある暗号通貨の中で、時価総額第2位に位置するイーサリアムの発展に大きく貢献した天才数学者だ。
コロラド大学にてのちに暗号通貨の開発へとつながる解析的整数論を学び、その後いくつもの功績を残し、暗号通貨業界の申し子といわれるほどの脚光を浴びている人物。
そんな彼が現在手がけている第3の暗号通貨が、日本でも大きな人気を誇っているカルダノADAである。
従来のプロトコルよりも遥かに優れたスマートコントラクトの開発を行っており、科学哲学と研究主導型アプローチから生み出された初のブロックチェーンプラットフォームと言うことで注目を浴びているカルダノ。
近い将来、そのプラットフォームを利用する暗号通貨が誕生するという事を耳にし、インタビューを申込んだところ、多忙を極める中、快く本誌の取材にチャールズ氏本人が応じてくれた。
チャールズ・ホスキンソン氏とのインタビュー
まず、この業界は非常に新しく、一定の水準や最善の方法と言うのは特に存在しないまま、業界の人間たちが色々と模索しながら各々の活動をしているというのが現状です。よって、まずトークンを発行したいと考えた時、自らが莫大な費用と労力を費やして独自のブロックチェーンを構築するのか、既に存在するプラットフォーム(ホストブロックチェーン)上で発行するのかを決定する必要があります。もし、イーサリアムやカラードコイン(Colored Coins)、ルートストック(Rootstock)の様なホストブロックチェーンを使うと決めた場合、必ずしもそれらのプロジェクトが好きだからとか、共感できるからとかではなく、単純にユーティリティとして、サービスプロバイダーと顧客の様な関係で使うという認識です。
この様なシステムを使用してトークンを発行する時は、それにかかる費用、秒間トランザクション回数、トランザクション承認までにかかる時間がどれくらいかなどを検討するわけです。カラードコインを使っていた人たちが、なぜこぞってイーサリアムプラットフォームに移行したかというと、ERC20のスタンダードが非常に扱いやすかったと言うこと、そしてトランザクションが承認されるまでの時間が非常に短かったということが挙げられます。実際、カラードコインでは承認まで1時間ほどかかってしまっていたこともあるのです。
だが、現在イーサリアムは自らの成功の犠牲者となっています。数百種類というトークンがイーサリアム上で発行され、それらが大渋滞を起こし、トランザクションの遅延や送金手数料の高騰という問題を抱えてしまっているのです。よって、ERC20トークンは、各々に適したプラットフォームを探すという局面に差し掛かっています。よく検討されるプラットフォームはネオ(NEO)やイオス(EOS)、カルダノですが、それ以外にもいくつか存在していますね。
そして、プラットフォーム間で移行を考えたとき、どの様な仕様と基準があり、必要な調整作業は何かを考えます。そして、一気に短期的に移行してしまうのか?または段階的に変更を加えながら徐々に移行していくのか?なども決めなければなりません。
ひとつはビットコインキャッシュ(Bitcoin Cash)やイーサリアム・クラッシク(Ethereum Classic)を生み出したエアドロップ方式があり、特定のブロックに達したところで、新たなトークンを発行するというものです。他にはプルーフ・オブ・バーン(Proof of Burn)やサイドチェーンという方法があります。簡単に言うとプルーフ・オブ・バーンは片方のシステム上でトークンが抹消され、もう片方のシステム上でトークンが発行される仕組みで、サイドチェーンとは2つのシステム上でトークンを行き来させるという方法です。プルーフ・オブ・バーンとサイドチェーンの長所とは、取引所に対して、新しいトークンを上場させた後に、古い方を削除するという面倒な作業を行わなくて済むことです。クリプトキティ(CryptoKitties)なんかがいい例ですね。
カルダノはより安全で、より早く、そしてトランザクション手数料を安く抑えるように設計しており、イーサリアムからの移行も行いやすくしています。また、移行の方法もエアドロップ方式か、プルーフ・オブ・バーン方式かを選ぶことができます。サイドチェーンに関しては、同期させる2つのシステムのサポートが必要になり、イーサリアムとのリレーを作るのはそれほど難しくないですが、現状ではビットコインとの同期は少々難しいところがあります。これらの問題に関しては、業界全体で取り組くみ、解決策を模索して行く必要があるでしょう。
カルダノのメリット、特徴や強みを教えてください
このように、私たちはユーザーに移行メリットを説明する際は、使い勝手の良さ、豊富なユーザーエクスペリエンス(経験)、使用コストの削減などを説明します。また、ケイパビリティの高さもメリットの一つで、例えばiOSアプリなどが複雑にアップデートした際も、それに対応できる様なモジュラー設計を心がけています。
私たちはトークン自体の定義(例えば発行のプロセスや、発行する際の設計)というものを真剣に考えています。ERC20とはなにか?ERC20は一体何ができるのか?などの正式な定義付けを行ったのは、実は私たちが初めてなのです。例えば同じプラットフォーム上でトークン発行したとしても、必ずしも全てに同じような権限やリソースが割り当てられるべきではないと考えます。有価証券のようなトークンを発行する場合や、クラウドファンディングで資金を集める場合、目標金額に達しなかった際に、投資家が資金の返却を求められるような機能を割り当てるなど、そのトークンに合った個別の機能を割り当てられる様にするべきだと考えます。
また、私たちはジオタギング (GeoTagging)などを活用したアイデンティティー・マネージメントにも興味があり、トランザクションにジオタグを付け、ユーザーが何処からアクセスしているかを判断できる機能も検討しています。現在、トラステッドハードウェア との互換性を研究しており、スマートフォンから位置情報を取得する際、VPNによって場所を偽る事が出来ない仕組みを構築しています。つい最近、カルダノ財団とジオタギング専門企業が、ブロックチェーン上にジオタグを導入することを題した共同論文の発表があったばかりです。
そして、ちょうど本日(3月1日)でしょうか、「SEC (米国証券取引委員会)によりICO発行企業80社ほどの聞き取り調査が行われる」とウォールストリート・ジャーナルから発表がありましたが、おそらく聞き取りの中ではICOの販売先などについても詳しく聴取が行われることでしょう。今後は各国で、ICO含め様々な暗号通貨に対する規制が制定されるでしょうから、トークン発行者は購入者の居住地がアメリカなのか、日本なのか、韓国なのか、はたまた中国なのかなどの情報を正確にキャッチする必要が出てきます。よって、ジオロケーション(Geolocation)技術が非常に重要視されていくわけです。
私たちのシステムを使ってもらうと考えた時、移行プロセスが容易であることはもちろんですが、それが市場のニーズに合っているか?ニーズに答えられるか?ということが重要になってきます。よってカルダノプロジェクトが注視している点とは、トークン発行者の要望を深いところまで理解し、変化のめまぐるしいこの分野で、ニーズや規制の変化に俊敏に対応し流動性を失わないようにするという事です。このトピックは単純ではなく、技術的な部分はもちろんのこと、規制や法律に関しても慎重になる必要があり、コミュニティ形成やサポート体制など、すべてを上手に一まとめにしなければいけないというわけです。
今後カルダノでのICOは増えていくと思いますか?
さらに、ICOを行う際に、複数の種類のトークンで受け付けるということが一般化しており、テゾス(Tezos)などはビットコインとイーサリアムで受け付けておりました。今後はADAなどでも受け付けるICOが増えていき、トークンの希少性を生むのではないかと思っております。とにかく私たちはケイパビリティの問題を解決し、さまざまな法律や規制面のリサーチを今年中に一区切りつけますので、、今後は将来がどの様に変化していくかを見定めて、最終的にどういった形で有用性が維持されるかなどを検証して、プロジェクトを進めていきたいと思っています。
カルダノの今後の予定、実行中の活動内容を教えてください。
私たちは国立大学法人東京工業大学やエジンバラ大学と共同研究を行っていて、彼らとは非常に良いチームワークが生まれております。通常アカデミックの世界では、エンジニアリングの世界に比べると、活動スピードが遅いのですが、その問題も克服し、とてもスピーディーに開発が進められています。私たちはこの取り組みの中で、学者とエンジニアがタッグを組んで、いくつもの開発を並行して進めていける様な、洗練されたプロセスを構築できました。
その成果物として、今年中により進化したサイドチェーンプロトコル、いくつかのバージョンのプルーフ・オブ・ステークやトレジャリーシステム、そして量子コンピューター対策済みのシグニチャースキームを完成させる事ができると思います。これらを、学術的な環境で厳しく検証し、世界トップレベルのエンジニア達によって実装までもっていくプロセスを構築しています。量子コンピューター対策のシグニチャースキームに関しては、世界的にも有名なピーター・シュアブ(Peter Schwabe)氏とアレックス・ラッセル(Alex Russell)氏らの協力を得て開発を行っています。彼らは、アメリカ国立標準技術研究所(NIST)が主催する技術コンテストに参加し、アメリカが国家レベルで行う暗号通貨の技術研究に参加している優秀なエンジニアです。学術分野にいる彼らは、通常では産業分野の仕事は行いません。あのグーグルやマイクロソフトの様な大企業でも一緒に何かをすることは難しいのですが、学術的な関係性を重要視している私たちには、力を貸してくれています。
終わりに
2017年末頃から顕著に現れたイーサリアムのトランザクション遅延問題は現在に至っても抜本的な改良は行われていない。それにも関わらず、世界中で続々と行われるイーサリアムベースのICOには疑問を感じざるを得ない。
イーサリアム以外のプラットフォーム上でICOを行った企業と話しをした際も、やはりこの「スケーラビリティ問題」を重視して決断したとのことだった。日本のみならず、各国で新たな法規制が行われる今、チャールズ氏が話した様に、今後のICOにおいては「法令遵守」という言葉がキーワードとなるだろう。
技術的観点での開発だけではなく、法的観点や学術的観点も考慮して開発を進めていると話していたことが実に印象的だった。第4次産業革命の主要技術であるブロックチェーンは今後も普及拡大し、ますます多くのクリプト企業が誕生するなか、カルダノのプラットフォームを利用してICOを行う企業が増えて行くだろうと予感せざるを得ない。
今後の彼らの活動に注目すると共に、大きな躍進を期待する。また、激忙のなか快く取材を引き受けてくれたカルダノ関係者の皆様に御礼を申し上げたい。
――現在、多くのプロジェクトが、イーサリアム(Ethereum)のプラットフォーム上で運用されております。そんな中、いくつかのプロジェクトが今後カルダノ(Cardano)プラットフォームに移行するというお話を聞きました。その場合、どの様にプラットフォーム移行をするのか、またそれによりどの様な問題が解決されるのかお聞かせいただけますでしょうか?